チョコレート海ビター地方、とある高校にて。
夕日の射す放課後の教室に2つの影。窓際の席でぼんやりと外を眺める男子生徒の腿に腰掛け、甘えた声で話し掛ける女子生徒。
「何か最近、ノリ悪くない?遊びに行ってもつまならなさそうだし」つつ、と指先で腕の筋肉をなぞり「エッチもしないし」と誘う様な視線を向けるが、男子生徒は彼女の方を見ようともしない。正しく心ここに在らずといった所だ。
「やっぱり、あの噂ほんとだったんだ」
「噂?」チラリと視線だけ彼女に向ける。
「カイに本命が出来たって噂」上目遣いに見てくる様にふと男子生徒、カイの脳裏を過ぎるのはある人物の記憶の映像。
大きな瞳、艶やかで柔らかそうな唇、透き通る様な肌。幾度となく再生されている筈なのにどうしようも無く胸が高鳴る。その上に甘い声や触れた時の感触まで加わると抑え難い欲望の衝動に駆られる。
今すぐにでも捕まえて、抱き締めて、唇を塞ぎ、白い肌をまさぐって・・・欲望のままに貪りたい、と。
けれどもカイはそれを実行に移す事は出来ない。無理矢理犯して泣かせてしまう、ましてや嫌われてしまうなんてもっての他だからだ。
しかし心がそう思っていても、今まで旺盛な性欲のままに行動してきたせいか、それを制御するのは難しかった。なので“処理 ”だけの目的でもいいという相手に処理させていたのだが、その事を知った映像の人物は自分が嫌だから、という理由それを禁止した。そのくせに自分は近頃両想いになった相手と頻繁に会っているらしい。
何のお預けプレイだよ・・・。とぼやきたくなっても仕方がない。いつ見返りが貰えるのかも分からない“お預け”を守るのが馬鹿馬鹿しくなって何度か行為に及ぼうとしたが、上目遣いに『嫌なんだもん』と言われた映像が脳内で再生されて不発に終った。以来、カイの性生活は童貞だった頃に戻ってしまった。
大きな溜息を吐いたカイは「どけよ」と女子生徒を押し退ける。
全く相手にされなかった事に腹を立てた彼女は「お願いされたって2度としないんだから」と言って教室を出て行く。それを視線だけで追いながら、この先他の相手とまともにセックス出来るのだろうか、などという考えが頭をもたげる。
また大きな溜息を吐いたカイに「まだ帰んねーの?」と声が掛かる。女子生徒が出ていったのとは別の入口にカイの双子の兄、ケイが立っていた。
「帰る」のそりと立ち上がってケイの方へ。
「さっきのゆいなだろ?」廊下を歩きながらケイが聞く。
「ああ」
「ゆいなも切ったのか?」
「多分、もうヤらねーとか言ってたな」
「マジかよ。女じゃ1番相性いいんだろ?」驚いたのか呆れたのか、何とも言えない表情を浮かべるケイ。
「いんじゃね?実際ヤれねぇんだし」
「・・・それもマジで?本当にレン以外勃たねえの?」今まで間近でカイの好き勝手振りを見て来たケイは、カイの変化を未だに受け入れられないでいた。
「勃つけど本番は出来ねぇ。入れようとするとレンの事思い出して萎える」
まじまじとカイの顔を見つめ「マジに惚れちまったんだな」としみじみ言った。
「どこがそんなイイんだ?」
「いつもキラキラしてる瞳とか表情とか・・気ぃ強いのか無鉄砲なのか分かんねぇけど決めたら退かねぇとことか」カイは脳内映像の人物、レンの事を思い出しているのだろう遠くを見つめる。
「幸せそうだな」ぽつりと言われた言葉にケイの顔を見る。
「そうか?片想いだぜ?」
「でも嫌じゃないんだろ?諦める気もなさそうだし」
「そりゃ気持ちなんてどう変わるか分かんねぇだろ?」と口端を上げて言う。と、2人の携帯電話に着信が。
「は?明日?」代表者が集まる会を急遽、明日開くというメッセージの内容にケイが不満気な声を上げる。「しかもどこの島だよ?」一方のカイはレンに会えると思うとテンションが上がったようでいそいそと会場の住所を検索し始めた。それを横目に見たケイは「恋のパワーってすげぇな」と呟き、できる限り協力してやらないとと密かに思った。