05双子とレン

ジュンと初めて遊びに行った日から暫く経ったある日、今度はB地区代表の双子から電話がかかってきた。ジュンの時はメールも電話も無視していたので家に来るようになった。今度もそうなっては面倒だと思ったレンは出る事にした。
「何か用?」こちらを見ている双子に素っ気なく言った。
『俺らBの代表って知ってるよな?』金髪の方、ケイが口を開く。
「知ってるよ」
『んじゃ俺らとも遊ぼうぜ』今度は銀髪の方、カイが口を開いた。声もよく似ている。
「何で?」唐突な申し出に訝し気な表情を見せるレン。
『ジュンのヤツとは遊んでんだろ?俺らはダメっておかしくね?』再びカイが言った。あれからジュンとは映画にも出掛けている。彼に思惑があるかないかは別にして、遊ぶのは楽しいから良しとしているのだ。
「そう。じゃあいいよ。1回くらいは」あっさりと承諾する。双子は笑みを浮かべた顔を見合わせた。
『んじゃ迎えに行く。今家か?』それにはさすがに驚いた様子を見せるレン。
「今日?今から?」
『早い方がいいだろ?』ニヤリと笑うカイ。
特別な用事はないので家で過ごしていたレンは「・・構わないけど」と言った。
『30分で行く』ケイが言った後、電話が切れた。その瞬間「レン様!」なのが声を上げた。
「大丈夫。様子見るだけだから」宥めるように微笑むレンに渋い顔をしたりのが言う。
「ジュンさんの時は違うと思いますよ。今からでも断った方が」
「何かケモノくさいです。あいつらは」りのに重ねてののも言った。
「でも皆がいてくれるし」
「それはモチロンですけど・・」何か不穏なものを感じ取っているのか、3人娘はジュンの時以上に心配なようだ。
「大丈夫、もし何かあっても何とかなるよ」気楽な事を言って笑うレンは着替えを用意するように指示を出した。

そして30分後、それぞれバイクに乗った2人が門の前に到着した。車に乗ったレンが門まで出てくるとヘルメットを差し出した。
「ありえないから。危なすぎる」ぐい、とそれを押し返すなの。
「大丈夫、飛ばしたりしねえって」カイが笑う。
「撒いたりもしねえし」ケイも笑う。当然だがそれを信じられる筈もない3人娘は鋭い視線で睨み付ける。
しかし「分かった」とレンがあっさりとヘルメットを手に取ってしまった。バイクに乗った事が1度もないので、どんなものか乗ってみたくなったのだ。
「んじゃ行くか」ケイがレンの手からヘルメットを取り、被せてやるとカイがヒョイとレンの腰を掴んで自分のバイクに乗せる。カイもバイクに跨がるとレンの手を自分の腰に回させて掴まるように言いエンジンを掛ける。きゅっとレンが手に力を入れるのを感じ取ったカイがアクセルを回した。言った通り、飛ばしもせず普通の速度で走って行く。
風が直接肌に当たるのを感じたレンは心地好いと思った。信号待ちで後ろからついて来ている3人娘が乗った車に手を振った。
「レン様かわいい」身を乗り出して前方を見つめるののが手を振り返す。同様に前を向いたままのなのが歯ぎしりする。
「りの、妙な動き見せたらすぐに撃て」
「了解」助手席に座っているりのはずっとライフルを構えケイに照準を合わせている。
興味のないものや嫌いなものの場合には関わりすら持とうとしない半面、その逆の場合は意外な程あっさりと受け入れてしまう。そんな時はいくら周りが危ないと注意しても聞きはしない。そういうレンの性格を知っているからこそ3人は今の状況は芳しくないと思っている。

やがてバイクは人が多く集まってくる街中に停まった。
今度はケイがレンをヒョイと下へ下ろし、カイがヘルメットを脱がせる。
「乗り心地、どうだった?」レンの乱れた髪を撫でながらケイが聞く。
「風が気持ちよかった」素直な感想に満足そうな顔をする双子。
「ジュンとはバーガー食ったんだろ?俺らとはラーメン食おうぜ」カイが肩を抱いて歩き始める。ラーメンも久しぶりだと思ったレンはついて行く事にした。
「ヤなかんじだなあ」両脇を双子に挟まれて歩いていくレンを見ながらののが言う。
「マジで。誘拐犯に見えるし」と頷くなの。身長190㎝以上もある大柄な男2人と身長155㎝そこそこの小柄なレン。その身長差はレンも気になったようで「高校生、だったよね?」と聞いた。
「ああ。18だぜ俺ら」
「そっか。3つも年下なんだ」パッと見では自分の方が年下に見えるかもしれないなどと考えてしまう。
そうしてやって来たラーメン屋は昼時という事もあって外にまで列が出来ていた。
「店で並んだ事なんてねえだろ?」最後尾に並びながらカイが言う。全くない訳ではないが、行列に並んで店に入るという経験は友人と一緒に何回かあるくらいだった。
「何回かはあるよ」
「へえ。そういう所も行くんだな」意外そうにケイが言う。
「別に選り好みなんてしないから」
「ふーん」珍しいものでも見るようにカイが見下ろしてくる。

レンが普段行く所などの話をしていると順番が来てカウンター席に着いた。やはりレンの両脇に座る双子。
「いつもの大盛り3つ」どうやら常連らしく、ケイの注文に店員の若い男が頷いてオーダーを通した。
「大盛りってどれくらい?」
「別にそんな多くねえよ」とカイは言うが、食べきれないかもしれないとレンは思った。案の定、「はい。お待たせ」と目の前に置かれた大盛りラーメンを見て多い、と呟いた。しかも横から2人が「これとこれもな」とか言いながらお薦めのトッピングを乗せていくので更に量が増えた。
絶対食べきれない、と
箸を構えたまま山盛りラーメンを見つめるレンの横で勢い良く食べ始める2人。
「早く食えよ。伸びるぞ」とケイに言われて恐る恐る食べ始める。それを横目に見たカイが笑う。
「心配すんな残したら食ってやるから」
「食べるって・・」冗談だろうと思いながら麺を啜る。濃厚なスープと色々な具材の味が混ざり合って美味しかった。
「美味しい」
「「だろ」」2人が同時に言う。しかし半分も食べるともうお腹が一杯になってきて苦しくなった。替え玉までもとっくに食べ終わっていた2人はそれを見ていて「半分ずつな」とケイがレンの鉢を自分の方へ引き寄せる。
「えっ食べるの?」他人の残したものを食べるなど考えもしないレンは驚きに大きく目を見開いた。
「もったいねーし」とケイは平気で食べ始めた。
「俺らんトコ下に小さいの居るからそういうの慣れてんだよ」戸惑うレンにカイが言うが家族と他人では話が違うのでは?と思う。
「まあ汚ねえジジイとかのはムリだけどな」早くも半分食べ終えたケイがカイの方へ差し出す。そしてカイもそれを同じ様に食べてしまった。
店を出ると3人娘が待っていた。
「一緒にくればよかったのに。お腹すいてるでしょ?」とレンが言うが、3人娘は大丈夫だと返した。列に並んでいて先にレン達が店を出てしまうなんて事になるわけにはいかない。
「で、もう解散?」しろとばかりになのが双子を睨め付ける。しかし双子はニヤリと笑って「まさか。次行こうぜ次」ケイがレンの肩を抱く。
「どこに?」
「ボウリングは?」
「1回だけしたことある」
「じゃあ2回目やりに行こうぜ」カイが反対側の肩を抱いた。
街中を歩いてボウリングの他にも色々遊べる施設が入った複合施設へ向かう。華奢な美人の肩を抱くガタイのいい男2人。妙に目立っても文句は言えないだろう。すれ違いざまにチラチラと視線を向けられる。目立つのに慣れているレンは気にしないし双子も気にならない、というか後ろから向けられている殺気も含めて面白がっているようだ。
施設に着くとボウリング場へ。ゲームの申し込みをしてレーンの方へ下りて行く。レンタルのボウリングシューズに履き替えようとするレンをカイが椅子に座らせ、その前に屈み込むと靴を履き替えさせる。
「きつくないか?」
「え・・うん」拍子抜けしたような声でレンが言うとボールを持ったケイが来る。
「1番軽いのにしといたから」レンの分まで取って来ていた。
「ありがとう」見た目等からは想像できないが意外と世話焼きなのはやはり下の兄弟のおかげだろうか。
「下に兄弟がいると皆こんな感じなの?」
「さあ。つっても誰にでもってわけじゃねえし」自分の靴を履き替えながらカイが言う。
「何かアンタ見てると下の見てる気になってくるんだよな」それは頼りないとか危なっかしいとか言われているのだろうかと渋い表情になる。
「オレ、年上なんだけど」
「知ってる」今度は飲み物を手にしたケイが答えた。
「つーか、オレって言うんだ似合わねー」苦笑するケイにツンと唇を尖らせた。
「別にいいでしょ、何でも」
「まあな」レンの隣に腰を下ろし顔を覗き込む。
「それって男になりたいからとか?」
「違う。ただのクセ」答えながら”知ってる”んだと思う。自分の性別の事を。別に隠している訳でも気にしている訳でもないので構わないのだが。
「子供の頃、イトコのお兄ちゃんが言ってるのがカッコ良くて真似して言い出しのが何かそのままになったってだけ」それまでは一人称は”レン”だったのだか、ある日”オレ”と言い出した時には周りに大騒ぎされた。イチヤなどは半泣きだったような気が、と当時の事を思い出している間にゲームが始まる。
豪快な音をさせてピンを倒す双子に比べ、レンの投げた玉は子供が投げた(下手をしたら子供にも負けるかもしれない)くらいの速度で転がっていく。
そういえば前にやった時も全然出来なかったっけ。
しかしコントロールは悪くないようでガーターに落ちる事はなかった。
「見たまんまで力ねえんだな」いっそ感心してカイが言う。隣に座りるとカイの太い筋肉に覆われた腕と自分の腕が目に入る。2回りくらい違いそうだ。カイも似たような事を思ったらしい。
「アンタとは腕相撲できねえな」
「確かに。折れそうだもんな」投げ終えたケイが戻りカイが立つ。
「・・じゃあ試してみる?」隣に座ったケイを見据える。後ろで控えていた3人娘が慌ててレンを諌めるが当然言う事を聞く筈もない。
「いいぜ。但しハンデ付きな」ニヤリと笑うケイ。
「何、まさか勝負すんのかよ」戻ってきたカイが驚いた顔をする。テーブルの上に肘を着いたケイが言った。
「両手で、立ってでもいいから倒せたらアンタの勝ちって事で」絶対に負けないと思っているのだろう、普通ならあり得ないハンディキャップをくれた。
「わかった」立ち上がったレンはケイの手を握る。カイの合図で力一杯その腕を押し倒そうと試みるがピクリともしない。当然といえば当然なのかもしれないが、それでもレンはすぐには諦めなかった頬を上気させながら前屈みになって更に力を入れる。
余裕で受けるケイの目に、屈んだ事で服の隙間からレンの白い胸元が入る。もう少しで乳首も見えそうなそこにケイの視線が釘付けになる。後ろに立っていたカイは既にそれが見えていて「サービスいいじゃん」と呟く。
「んっ」とレンの口から声が洩れるとケイは間近にあるレンの顔に視線を移す。頬を染めて眉根を寄せ、艶やかな唇から悩ましげな声を洩らす様に思わず別の場面を想像してしまう。
そして視線を戻した胸元に目当ての乳首を見た時にいらぬ想像がより掻き立てられたせいか手の力が緩んだ。そしてずっと力を入れ続けていたレンの手に押されて倒されてしまう。
「何やってんだよ。ケイ。ダッセー」とカイに笑われるがまだレンの胸元を見ているケイは気にしていない。そのケイの前にレンの顔が迫る。
「手加減したでしょ」キッと睨んでくるその顔に思わず見とれる。透き通る様な白い肌に色付いた頬、強い眼差しを湛える大きな瞳、柔らかそうな唇。無意識に手を伸ばしかけたがすぐに退く、と同時にタンと音がして床にナイフが突き刺さる。そのまま手を伸ばしていたら手に刺さっていただろう。
「なの、危ないよ?」窘めるように言うレンは自分が何をされる所だったのか分かっていない。なのが止めなければキスくらいはされていただろう。
「ごめんなさい」と一応謝るなのに頷いて再びケイに向き合う。
「何で?あんまり弱かったから?」納得いかないと詰め寄るレンの頭をくしゃりと撫でて立ち上がるケイ。
「違げーよ。ちょっと考え事しちまっただけ」その言葉にそれくらい余裕だったのかと悔しそうな顔をする。
「んじゃ今度は俺と勝負しようぜ。何か別ので」とカイが言う。
「何で?」じっとりとした視線でカイを見上げる。
「力、関係ないのにしようぜ。ビリヤードとかダーツとか」
「いいよ」ということでダーツで勝負を
する。結果は引き分けで、次はビリヤード、スポーツの出来る施設ではゴルフ、卓球、シューティングと次々に勝負したが決着がつかなかった。
「アンタ、結構やるじゃん」一先ず休憩しようとベンチに腰を下ろしてカイが言った。
「ずっと思ってたけど。アンタ、じゃないから」
「じゃあレン」一応年上である相手を躊躇いもなく呼び捨てにするが、レンはアンタと言われるよりはいいと思った。
「俺らの名前も呼んでくれよ?」ジュースを差し出しながらケイが言った。
「ありがとう、ケイ」
「どういたしまして」受け取ったジュースを飲む。その様子を見ながらケイが聞いた。
「で、続けるか?後はゲーセンかカラオケかだな」
「やる」即答した。決着をつけたいというのもあるが、こうして遊ぶのも楽しいと感じていたのだ。
「そうこなくちゃな」一気にジュースを飲み干したカイが立ち上がる。

この勝負、決着の場となったのはゲームセンターだった。音楽に合わせて画面に表れるマークをタッチする、いわゆる音ゲーでどちらがハイスコアを叩き出せるかを競った。結果、1点差でレンの勝ちだった。
「やった」喜ぶレンに3人娘が抱き付く。
「さっすがレン様」
「お見事です」
「かっこいい~」口々にレンを称える。いつの間にか集まっていたギャラリーからも拍手が起きる。その騒ぎが落ち着いた頃。
「またやろうぜ」カイが手を差し出す。握手だと思ったレンはその手を握るべく手を伸ばす。と、それを握ったカイがぐいっと自分の方へ引き寄せた。
3人娘がそれぞれの武器を構えるより早く、カイの行動を読んでいたらしいケイが彼女らの前に立った。
「まあまあ、ちょっとしたスキンシップだって。こんな所で物騒なもん振り回したら通報されるぜ?」
「お前の指図は受けない」
「ふーん。ま、そんなもんか」首を軽く回したケイが口端を上げる。戦闘も辞さないというかやる気満々である。
そのやり取りの間レンとカイはというと「離して。カイ」抱き締められたレンが苦しそうに言うと腕の力が緩められた。
「急に何?」と睨み上げると脇に手を入れ、小さな子供を高い高いするような感じで軽々と持ち上げられる。間近になったカイの顔を更に睨む。
「下ろして。子供じゃないんだから」しかしカイはまだ下ろさない。
「また、今度勝負しようぜ?面白かったんだろ?」
「まあね。でもこれは嫌」
「はは」声を上げて笑ったカイはストンとレンを床に下ろした。
レンが後ろを向くと3人娘とケイが向き合って、今にも闘い始めそうな状態だった。
「こんな所でダメだよ」レンが間に割って入ると3人娘が身を退いた。

その後はカラオケもし、再びバイクで夜の街を走ったりして別れたのは夜の10時を過ぎてからだった。こんなに遊び回ったのは久しぶりだったので、レンは帰りの車の中で眠ってしまった。
3人娘が危惧していた様な事は起きなかったが、やはり油断ならない奴らだと双子は認識された。

「どうだった?」レンと別れた後ケイが聞く。
「真っ新」カイがニッとして答える。
「へえ。んじゃ余計ジュンに先越されるわけにはいかねえな」
「当然」カイは匂いに敏感で、特技と言えるのか嗅ぎ分けが出来る。とはいっても、女か男か性体験が有るか無いか、美味しそうかそうでないか、なのだが。
「今までにないニオイだったけど旨そうたぜ」
「だろうなヴァージンの割にはエロい所見せてくれたしな」腕相撲の時を思い出すケイ。
「”男”知ったらもっとエロくなんじゃね?」
「早く喰いてえ」上唇を舐めるカイ。
「問題はどうやって1人にするか、だな」ケイは今日1日の3人娘の行動を思い出し始める。カイは抱きしめた時のレンの身体の感触や間近で見た白い肌や桃色の唇、そして匂いを思い出し、それを犯す時の事を想像して生唾を飲み込んだ。
「あーやべ。ヤりてえ」と言うと携帯電話を出してどこかへかけ始めた。相手が出ると今すぐに会いに来いとか何とか言っている横でケイは<レン奪取計画>を練っていた。

06