ぬきがき マオとレン

「何か飲むか?」風呂上がり、レンの身体をバスタオルで拭いてやりながらマオが聞いてくる。幼い頃から身の回りの世話は人に任せるのが当たり前という生活環境で育ったレンは、当然それに対して普段特別に思う所などないのだがマオといる時は違う。

以前2人で異空間に閉じ込められた事があり、その際家事能力ゼロに等しいレンの世話をマオがしてくれた。以来マオは自然とレンの世話を焼くようになった。それこそ普段家でされているのと変わらないくらいのレベルの事を傍から見ているとさらりとやってのける。

それを受けるレンは自分がどこかの王侯貴族にでもなったような心地にさせられるのだ。髪の毛を丁寧に乾かす指先の動きを感じながら、うっとりと目を閉じていた目を開き頭上を見上げる。「飲み物よりおやつ食べたい」直に普段の就寝時間で食するのには適さないのは分かっているが、小腹が空いている。

マオが上半身を曲げて顔を覗き込み「軽い物でいいか?」再度問うと頷いて笑みを返した。その額に口付けた後夜着を着せてしまい、ベッドに運ぶとおやつの用意に取り掛かる。

程なくしてホットココアプリンが乗ったベッドトレイがレンの前に置かれた。「いただきます」いそいそと一口掬って口に入れると温かいそれはとろりと舌の上で溶けた。

「おいし」満足気に笑みを浮かべるレンを見て目を細め「喜んで頂けて何よりです」主に仕える従者が言う様な大仰なセリフを耳元で囁く。マオが時折こんな言葉をかけてくるのもレンが王侯貴族になった様な気がする一因だった。

「ねえ。マオって何で時々そういう言い方になるの?」ちらりと視線を向けると端正な顔立ちが間近にありドキリとする。

「お気に召しませんか?」自分の顔と声の良さを理解しているであろうこの男は普段からレンに対して遠慮なくかつ有効に使ってくる。今もまた少し憂いを帯びさせた表情と声音でレンを魅了する。

「そ、そうじゃないけど、理由が知りたい」頬が少し熱い、赤くなっているかもしれない。そんなレンの手を取り、恭しく甲に口付けると視線だけを向けて言った。

「レンが俺の中では一番偉いから」それは自分にとって王の様な存在だと言う意味に聞こえる。

「えぇー。レンってそんなに偉そうじゃないでしょ?」むうっと膨れっ面になる。マオがあれこれしてくれるのが心地よくない訳がなく、ついおねだりというかわがままというかな事を言っている自覚はあるが、決して自分の使用人だとか従者だとか思った事はないし扱った事もない。

「もちろん、そういう意味じゃないさ」笑って頬を撫でられたのでじっとりと睨みつける。しかしマオは笑みを崩さないままさらりと言った。

「レンには俺の全てを差し出してもいいと思うから」

「それって」ぱちくりと目を瞬かせていると手に再び口付て「レンの為なら何でも出来るって事」と言われ、本当にマオの主になったと錯覚しそうになる。一瞬背景が城の一室に見え、マオも自分も舞台衣装の様な煌びやかな服を纏っている様に見えた。

そんなレンを見て戸惑っていると思ったのかポンポンと優しく頭を叩くマオ。「そんな大げさに考えるなよ?俺が勝手にごっこ遊びかロールプレイングでもしてると思ってくれたらいい」マオが遊びだとかゲームだとか言うのがあまり似つかわしくなくて小さく笑う。「そんな風に言ったら何だか楽しそうじゃない?」

「そうだな」マオにとってはただそうで在るというだけで楽しいという感覚ではないのだが、もちろん嫌でもない。だとしたらそう捉えてみるのも悪くはないだろうと考える。他でもないレンがそう言うのならば。

「じゃあ、レンも時々仲間に入れて?」大きな瞳をきらりと輝かせて見つめてくる。時には強い意志を、時には揺れる感情と共に宝石の様な涙を浮かべるレンの瞳がマオを捉える。捉えられた時の感覚は形容し難く、高揚感かと思えばほろ酔いの様な心地良さもある中で、奥底には生存本能を刺激される様な恐怖が混じっている。

それこそ魔術や幻想生物が存在する物語やゲームの世界で魔術の一種である魅了に掛けられたか、もしくは魔眼の持ち主に見つめられたかという様な。そんな考えが過ぎる頭を「仰せのままに、陛下」と畏まって下げる。

「陛下?可愛くない」再びむくれ顔をしたレンに抗議されるがマオにとっては王子でも王女でもなく王か女王と言った方がしっくりくるし、以前’姫’と呼んだ時には嫌がっていた様に記憶している。

だがまあレンにも言ったように自分の中でそうであるといっただけで、実際の主従関係を結びたい訳では無いのだから呼称など何でもいいだろう。

「では何とお呼びすれば?」困った風にお伺いを立ててみるが「知らない。マオが考えて」と返されてしまった。

さて、と暫く考えてみるが敬称が何十種もある筈もなく且つ可愛いさを求められては選択の余地は無いに等しい。「では改めて姫とお呼びしても?」結局以前拒否された’姫’に行き着く。どう出るか、とレンを見つめると「よろしい。許します」意外にあっさり受け入れられた。前に言った時、実は満更でもなかったのかもしれない。どこか満足そうな表情のレンを見ながら思う。

その後就寝の準備を済ませ再びベッドに入ろうとしたレンの前に跪いて問うた。「姫、今宵一夜を共にする栄誉を私に頂けますか?」見上げると当然だが見下ろしてくるレンと視線が合う。自分を捉えて離さないその瞳を少し細めて口許に笑みを浮かべ、了承の意として手が差し出された。それに恭しく口付けてから立ち上がり、レンを抱き上げてベッドに横たえる。その上で膝立ちになり上衣を脱ぎ捨てると顕になったマオの肢体を目にしてレンが頬を染め、艶やかな唇から吐息を零すのを聞いて今度はマオが目を細める。顔と同じくレンが自分の身体を気に入っているのも知っている。

シーツを軽く握っていた手を取り好きにしていいというふうに自分の身体に触れさせる。

ピクリと小さく跳ねた指先が肌の上を滑り始めると自分はレンの肌に触れながら唇を重ねた。ゆっくりと探る様な口付けが徐々に激しくなっていくに連れてレンの手も大胆になる。程よい厚さの筋肉の触り心地を愉しむ様にまさぐりながら、この美しい男が跪いて自分を乞うたのだという事にえも言われぬ高揚感を与えられる。

本当に全て差し出してくれるの?そう心の中で問い掛けながら自分に覆いかぶさっているマオを見る。そこには欲情と飢えが入り交じる雄の瞳があった。切なそうにも見える表情が艶っぽい。思わず感嘆の息が漏れる。

つい、とその胸元を押す指先で体勢を入れ替えるように伝える。姫の要望に応えて横たわるマオの腰を膝立ちで跨いで見下ろした。小さく息を吐いてレンを見てくるマオの反り勃った男根が腿に当たる。そっと手を添えて扱いてやると眉根を寄せて深く息を吐いた。そんなマオを見ながら微笑む。

本当にそうだったら、全部ちょうだい?

「何を?·····」声に出してはいないのに表情から読み取ったのかマオに聞き返されるが、さあ?と小首を傾げる。いつもなら可愛らしく見えるその仕草が今はどこか尊大に見える。

「姫·····」暫くレンの手で弄ばれていたマオが苦しそうに呼び、白い腿に手を這わせた。撫でると言うよりは揉む様にして動いた手が尻を掴み、その奥へ指を滑らせる。指先が孔に触れるとその周りをなぞる。

「姫」もう一度呼んで許可を求める。衝動を抑える為か唇を噛むのを見てぞくりとする。

「噛まないで。裂けちゃう」顔を寄せて口付ける。それを許可と取ったのか限界だったのか、きつく抱き締められた後ベッドに押し倒される。呼吸もままならない程のキスをしながらレンの脚を割って下腹部に手を伸ばす。先程は遠慮がちに触れていた所に指を入れる。ビクリとレンの身体が跳ねたが構わず奥まで差し入れ、抜き差しを始めた。女性器も男性器も持たないレンの身体は今まで性欲や快感に対して鈍感で、レン自身も過去に付き合った相手との相性などから縁がないものだと思っていた。それを変えたのはマオで、レンの感じる場所を探る為に何度もその肌に手を這わせた。おかげでどこがどう好いのか、悦ぶのかなど熟知している。

嬌声混じりの吐息を吐きながら捩るレンの腰を掴み、はち切れそうな自分の男根を解した孔にあてがうと先端を挿入する。

「っう……」許可していない、と抗議する様に腕を掴んでくるレンの手を取って頭上に押し付けると共に腰も押し付ける体勢になり、より深く奥へと入っていく。苦しそうなレンと逆に男根がレンの内を拓いて進む感触に快感を覚え息を漏らす。ゆっくり抜き差しを始めると「待って、まだダメ」と制止の声がかかるが構わず続ける。最初こそ「マオのバカ」などと文句を言っていたレンだったが、動きが激しくなって来るにつれそんな余裕もなくなる。後は与えられる快感を受け入れる事しか出来なかった。そんなレンをうっとりと見つめながらマオが何度も口付ける。

いつもはレンの体調を第一にペースを合わせるのだが、一夜という言葉通り明け方近くまでレンを離さなかった。

翌日、ベッドから出られない状態に陥ったレンは当然不機嫌だったが世話をするマオは上機嫌で満足そうだった。